ディラック方程式について8枚のスライドでまとめてみたら

 量子力学を理解する上で重要な概念の一つに、「スピン」があります。例えば、光を粒子としてとらえたものである光子は、スピンの大きさが1です。この場合、1回転しても光子は何も変わりません。ですが、電子のスピンは1/2で、この場合1回転すると状態の符号が反転してしまいます。つまり、電子は2回転しないと元に戻らないのです。この不思議な性質を探るために、今回はスピン1/2の粒子が従うディラック方程式について見ていきましょう。



 パウリ行列を用いて、2成分のスピノルというものを導入します。2成分ですが成分が複素数なので、その自由度を使って三次元での向きを表すことができます。この2成分スピノルは、実は1回転させると符号が反転するので、2回転しないと元に戻りません。スピンが1/2なので、スピノルを回転させる時に指数の肩に1/2が現れるのがこの理由です。

 ガンマ行列という、通常4×4行列で表現される行列を導入します。パウリ行列を拡張したようなものですが、パウリ行列の積で線形独立だったものは1と3つのパウリ行列の4個だったのが、ガンマ行列の積では線形独立なものが16個もあります。このガンマ行列を用いてディラック方程式を書くことができますが、この時波動関数ψは4成分となります。上2成分と下2成分はそれぞれ先ほどの2成分スピノルで表します。


 確率密度を時間微分すれば、確率流密度の発散にマイナスをつけたものになります。これは、そこにいる確率が増えれば確率流はそこに流れ、減れば確率流は周囲にあふれ出すためです。マイナスをつけているのは、確率流密度は周囲にあふれ出す時を正にとっているためです。実は、確率密度と確率流密度はガンマ行列を用いて簡単に表すことができます。

 ローレンツ変換での変換性を見ると、線形独立な16個の行列を用いてそれぞれスカラー、擬スカラー、ベクトル、擬ベクトル、反対称テンソルの変換性を持つものを作ることができます。


 ガンマ行列は、粒子が重いか軽いかによって、表現を使い分けるのが普通です。

 カイラリティは、質量がない時はヘリシティに一致します。とりあえず質量のない場合のヘリシティを考えます。ヘリシティは、スピンの向きと運動の向きが同じ時に右巻き、逆の時に左巻きと言います。運動の向きは空間反転で符号が反転しますが、スピンの向きは空間反転で変わらないので、右巻きスピノルと左巻きスピノルは空間反転で入れ替わります。質量がある場合も、カイラリティが右巻きのスピノルと左巻きのスピノルは入れ替わります。


 パリティは、空間反転のことです。空間反転対称な場合にパリティが偶、空間反転反対称な場合にパリティが奇と呼びますが、これは偶関数、奇関数のときと同じような呼び方です。パリティに関して対角的な表現をディラック表現と言います。ディラック表現での上2成分と下2成分は、それぞれ右巻きスピノルと左巻きスピノルの和と差で表せるので、上2成分はパリティが偶で、下2成分はパリティが奇であることが分かります。ただし、実際には波動関数は位置の関数なので、その偶奇性も考える必要があります。

 自由粒子についてディラック方程式を解いてみると、正のエネルギーの解と、負のエネルギーの解があることが分かります。負のエネルギーの状態が全て粒子で埋まっている状態が真空だと考えれば、負のエネルギーの状態から正のエネルギー状態へ励起することが、粒子と反粒子が対生成することに対応しています。



 今回は、ディラック方程式について見てきました。スピンが半奇数のフェルミオンはイメージしづらいところがありますが、そのおかげで同じ状態をとれないということを、初めて学んだときは衝撃を受けました。今回まとめてみて、量子力学は面白いなあ、と改めて感じました。

ポップラーン

数学や物理の「8枚のスライドでまとめてみたら」シリーズを更新しています。少しでも学ぶことの楽しさを伝えられたらと思います。上の方に記事のまとめがあります。

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