動物としての人間

 人間が数ある動物の中で、ここまでの影響力を持っているのは、団結する力によるものが大きいと思っています。大勢で団結し、協力して大きなことを成し遂げたり、普段の生活をしたりすることは、人間の得意分野だと思います。今回は、数は力だということに着目して、動物としての人間の立ち位置について考えてみます。



 まず、人間が他の動物と比べて明らかに異質なのは、遺伝子的な進化よりも社会制度的な進化の方が圧倒的に速いということです。他の動物であれば、周りの環境に合わせることはあるものの、基本的には遺伝子の情報に従って本能のままに生きて、無事に生き残って繁殖できた個体の遺伝子が残って進化していきます。ただ、人間の場合は、遺伝子の要因を全く無視することはできませんが、基本的には社会制度が変わって社会全体が進化していき、より多くの人間を上手くまとめることができる社会制度が生き残って進化していきます。人間は、遺伝子の代わりに社会制度が進化していると言うこともできるかもしれませんが、人間の本能自体が文明や社会制度に比べてほとんど変わっていないことには注意すべきです。


 では、なぜ人間は高度な社会制度を生み出し、進化させていけるのかというと、根本的には強い共感性が理由だと思っています。もちろん、言葉や道具を巧みに操れることなど、他にも様々な理由はあると思いますし、共感性の低いサイコパスな個体などもいるでしょうが、今回は共感性に注目して単純化して話してみます。共感性が高い人間は、自分が共感できる相手に対して、まるで自分と同じように感情移入することができます。例えば、つらそうにしている人を見ると自分までつらくなります。この共感性によって、人間は自分のことだけでなく、自分が所属する集団のことを考えて行動することができます。


 ただ、共感できない相手がいる場合、一緒に行動することは難しくなります。言い換えると、同じ人間だと思える個体が相手なら行動を共にできますが、同じ人間だと思えないような個体が相手だと一緒に行動することが難しくなります。自分が一人で孤立している場合と、相手が一人で孤立している場合で場合分けしてみます。

 自分が一人で孤立している場合は、何とか集団に合わせられないか頑張るしかありません。人間は集団で生きることができるという言葉の裏を返すと、一人で生きていくのが難しいということです。孤立すると寂しさを感じるので、どうにかしてどこかの集団に所属しようとします。どこの集団にもどうしてもなじめない場合、最悪自殺をしてしまう場合もあります。

 逆に、相手が一人で孤立している場合、集団の和を乱す存在なので、集団から排斥しようという力が働きます。その相手が集団の和を乱す存在だと噂話をし、集団の規律に従って更生させようとし、もし更生しなければ集団から追い出すことになります。同じ人間だと思えない相手に対しては、極端に言えば他の動物と同じように扱うことになります。自分と違う存在だと思った瞬間、心無い言動を平気でできてしまうことがありますが、本当に共感できず、心が無いので仕方ないとも言えます。

 では、人類はかなりの時間をかけて社会制度を進化させてきたので、人類はみんな団結しているかというと、これはかなり難しいことが分かります。2人ですら相手のことをちゃんと理解しないとすれ違う可能性があるにも関わらず、集団が3人、4人、5人、6人と増えていく度に、そのコミュニケーションのつながりの数n(nー1)/2が、

3×2/2=3

4×3/2=6

5×4/2=10

6×5/2=15

と二乗に比例する形で爆発的に増えていくので、例えば100人なら、

100×99/2=4950

のようになります。このことから、大人数を無策でまとめるのはかなり難しそうだということがわかります。つまり、たくさんの人の集団を無理にまとめようとすると、もめやすかったり、かえってみんなが孤立してしまったりするということです。では、大人数が団結するのは無理なのかというと、全員が仲良くしようとすると難しいだけで、家族単位で仲良くして、家族の代表どうしが仲良くして、といったように、代表が小集団の意見をまとめて他の代表とコミュニケーションをとることで、コミュニケーションのつながりを現実的な数に抑えることができます。もちろん、これは大人数をまとめることが現実的になるというだけで、決して簡単だと言っている訳ではありません。



 という訳で、動物としての人間について考えてみました。大人数になると、みんなで団結するためにあえてつながりを減らすという選択肢があるのは、考えていて面白かったです。よく、世界平和を願ってしまうことがありますが、身近な数人と仲良くできるだけでも、充分にすごいことなのかもしれませんね。

ポップラーン

数学や物理の「8枚のスライドでまとめてみたら」シリーズを更新しています。少しでも学ぶことの楽しさを伝えられたらと思います。上の方に記事のまとめがあります。

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