結晶場分裂

 摂動によって縮退が解ける例を見るために、結晶場分裂について考えてみましょう。金属に余分な電子対を持つような分子が配位したものを錯体と言います。球対称なポテンシャルの環境下では同じエネルギー準位だった軌道も、配位子によってポテンシャルの球対称性が破れるとエネルギー準位が分裂します。この分裂のことを結晶場分裂と言います。今回は、d軌道の結晶場分裂について見ていきます。

 ベクトルの上が→ではなく^になっているのは、単位ベクトル、つまり角度部分という意味です。今回は簡単のため、デルタ関数による分裂の様子を見ました。準位が大きく分裂すると、エネルギーの低い準位に電子が電子対を作って詰まりますが、分裂が小さい場合には、分裂する前と同様にスピンの向きをそろえて各軌道に電子が入ります。前者を低スピン錯体、後者を高スピン錯体と呼びます。スピンの向きをそろえると安定化するのは、同じ向きのスピンはぶつかることができないことが原因です。逆に言うと、反対向きのスピンの電子どうしはぶつかってしまうため、もう片方の電子が邪魔で原子核からの安定化を受けにくくなってしまいます。

 ちなみに、対称性によってはデルタ関数で近似すると変なことになることもあるので、注意が必要です。



 今回は、結晶場分裂について見てきました。この結晶場理論は、分子軌道法により定量的な議論ができるようになった配位子場理論に置き換わり、錯体の性質を語る上で欠かせないものになっています。例えば、配位子が変わることで色が変わるのは、この分裂の幅が関係しています。私は配位子によるエネルギー準位の分裂について勉強して、配位子ってただついてるだけじゃないんだなあ、と素直に感心しました。

ポップラーン

数学や物理の「8枚のスライドでまとめてみたら」シリーズを更新しています。少しでも学ぶことの楽しさを伝えられたらと思います。上の方に記事のまとめがあります。

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