バンド理論
固体では結晶運動量をよく使い、そのような理論をバンド理論と言います。今回は、バンド理論のざっくりとした話をしたいと思います。
とりあえず一次元の話をします。ハミルトニアンにaの並進対称性がある時には、結晶運動量k,k+2π/aには、同じエネルギーE(k)が対応します。これを前提とすれば、ブリルアンゾーン(-π/a<k<π/a)の中だけを考えれば良いことになります。つまり、単位格子(結晶の繰り返しの単位)の中だけを考えれば結晶全体の構造が分かるように、結晶運動量もブリルアンゾーンの中だけを考えれば良いのです。
ブリルアンゾーンの中で、E(k)についてプロットしたものを分散関係と呼びます。E(k)の各連続関数(図では青と橙)をそれぞれバンドと呼びます。
自由電子の分散関係は二次関数(kの2乗を2mで割ったもの)になります。ここでバンドの底に注目すると、微分が出来れば、バンドの底を二次関数で近似できます。つまり、バンドの底に電子が入っているような状況を考えれば、自由電子のように考えられるということです。ただし、底の曲率によって二次関数の係数が異なるので、係数を合わせるために電子の質量mを有効質量に置き換えます。具体的には、バンドの底が寝ているほど有効質量が大きくなり、電子は動きづらくなります。逆に、バンドの底が鋭いほど有効質量が小さくなり、電子は動きやすくなります。
ところで、電子の相関を無視すれば、電子を低エネルギーの準位から詰めていったものが電子状態となります。この時、空の軌道が近いので、エネルギーの一番高い電子が一番動きやすい電子です。このエネルギーはフェルミエネルギーと呼ばれ、フェルミエネルギーとバンドの交点(図では2個ある)をフェルミ点と呼びます。このフェルミ点は、2次元ならフェルミ線、3次元ならフェルミ面となります。例えば3次元の結晶では、フェルミ面を見ればどの結晶運動量を持つ電子が動きやすいのかを知ることが出来るので、磁場をかけた時の電子の挙動が分かるなど、フェルミ面が分かると色々と便利です。
また、バンドがちょうど電子で満たされている状態を考えると、バンドギャップ(図では橙のバンドの底のエネルギーと、青のバンドの頂上のエネルギーの差)以上のエネルギーを与えないと電子が動けません。(図ではグラフの端のエネルギー差がバンドギャップです。)ここで、仮にバンドギャップほどのエネルギーを系に与えて、埋まっているバンドの頂上の電子が、空のバンドの底に励起した場合を考えます。埋まっていたバンドの頂上には電子一つ分の空の軌道ができます。これを空孔(ホール)と呼びます。空孔の有効質量は、関数が上に凸なので、負になります。これは、通常の電子と逆向きに動くということです。例えば電場をかけた時、電子とは反対向きに動きます。まるで電荷がプラスの粒子のように動くので、そのように扱うことが多いです。
今回はバンド理論についてざっくり話しました。バンド理論は、固体の物性を見通し良く記述するために重要な役割を果たしてきました。例えば、バンドが中途半端に詰まっている状態は、電子が動きやすいので、電場をかけた時に電子が動く、つまり金属ということになります。逆に、バンドギャップが大きいと、電子が動きにくいので、電場をかけても電子がなかなか動かない、つまり絶縁体ということになります。もちろん、電子相関が強くなると別の処方箋が必要になりますが、適用範囲の広さや見通しの良さを考えれば、とても有用な理論です。私はバンド理論を学んで、多体問題は大変だけど、それでも何とか頑張っているんだな、と感心しました。
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